2026/01/11
SUPER COMIC CITY関西 31(超OUR SINS RESONANCE 2026冬)頒布
囚人ホンイサの短編集です。全体的にホンルが愉快なことになってます。全編R-18ありです。
『きみのかおり』
自分の部屋に戻れなくなったホンルのはなし
『今夜の君はわるいひと』
酔っ払ったイサンと送り狼になるホンルのはなし
『泪に溺れる』
E.G.O影響で涙が止まらなくなったホンルのはなし
『情調オルガンがあったなら』
自分の気持ちを制御したいイサンのはなし
文庫A6版/128P(総ルビ、表紙等込)
イベント頒布価格 700円
Booth頒布価格 850円
▼Booth通販はこちらから
https://hurutake.booth.pm/items/7730126
きみのかおり (序盤のみ掲載、性描写あり)
「ダンテ、囚人たちの予定された業務時間に到達しました」
定刻通りにファウストがそう告げると、PDA端末をいじっていたダンテが顔を上げた。
〈ああ、もうそんな時間か。うん、囚人の業務終了を承認します〉
アラームの音ともに鳴らされた言葉に、囚人達は各々立ち上がって裏口へと入っていく。
イサンも本に落としていた視線を上げた。すぐに続きが読めるようにと人差し指を栞代わりに挟ませたまま、席を立ったところで、後ろに座っていたホンルが声をかけた。
「イサンさん、この後、お部屋に伺ってもいいですか?」
「是非もなし。扉の前で待ち合わせるや?」
そうイサンがすぐに返すと、ホンルは喜色を滲ませながら頷いた。
「はい。三十分後くらいで」
「心得たり」
イサンもいつもの乏しい表情の端に笑みを浮かべた。
本のスピンを読みかけのページに挟んで閉じ、鞄にしまうとホンルと二人並んで裏口に消えていく。
〈――ホンルとイサン、最近仲が良いね?〉
二人のやりとりをたまたま目にしたダンテは、二人が部屋に戻った後にそうファウストに問いかけた。
「ホンルさんとイサンさんは以前から良好な関係であった、とファウストは推察します」
〈二人とも穏やかな性格だし、結構気が合うのかもね〉
お茶でも啜りながらお喋りでもしているのだろうか。
何はともあれ、囚人達の仲が良いのは管理人としても喜ばしいことだ。
大湖に入る前、イシュメールとヒースクリフが衝突した時のことを思い出して、あんなギスギスとした殺伐な空気には二度となりませんように、と改めて願うばかりだ。
「――ダンテ」
ふんふんと鼻歌――という名のカチコチ音――を響かせていると、ファウストが神妙な面持ちでダンテを見る。
〈どうかした? ファウスト〉
だがファウストは逡巡して、「いえ」と視線を逸らした。
「――不確定な事象を憶測で話すべきではありませんね」
引っかかる物言いに嫌な予感――直感とも言う――を感じたダンテは、何度もファウストに問い返す。
〈えっ、もったいぶらないでよ〉
ダンテの要求もむなしく、ファウストは「憶測ですので」の一点張りで口を閉ざしたまま、自身も裏口の廊下へと入っていってしまった。
◇
「――今日は茉莉女児環……茉莉茶を持ってきました」
ホンルは二人分の茶器と茶葉を一缶、イサンの部屋に持ち込んだ。ホンルはテーブルにそれらを置くと、備え付けの小さなケトルで湯を沸かし始める。
イサンは全く料理ができないため、食器類を洗うシンクはあれど、キッチンなどという設備はない。
湯を沸かしている間に、ホンルは持ってきた茶葉の缶を開封する。急須の蓋をとり、茶葉を二人分入れていると、興味深そうにイサンがホンルの手元を覗き込んできた。
「うむ……不可思議な葉なり」
茶葉は輪を描くようにくるんと丸まっており、黄色の産毛を纏っている。金色に輝いて見える茶葉からは、濃い茉莉の香りが匂い立っていた。
「鴻園を出るときにいくつか新しい茶葉を持ってきたんです。この輪っか、手作業で丸めているそうですよ」
「さぞ高価からむ……」
手作業、という単語にイサンは眉間に皺を寄せた。
多くが工業化されているこの都市で、【手作業】……おそらく一般市民では到底お目にかかれない高級品だろう。一般流通品の何倍の値段がするのだろうか。
「今更だと思いますけど……」
ホンルは苦笑しながら手際よく茶器に湯を注いでいく。イサンはその一連の所作をずっと目で追っていた。
「そろそろ見飽きませんか?」
ホンルがイサンの前で茶を淹れるのは初めてではない。
むしろ数え切れなくなっているほどだ。それでも、イサンは毎回静かにホンルの茶を淹れる様を見つめている。
「飽くことはなき。なかなか見惚るるほどなれば」
「イサンさんがそう言うなら。はい、どうぞ」
「有難し」
湯気が立ち上る茶杯を受け取り、静かに口をつける。しっかりとした、強めの茉莉の香りが鼻に抜け、嚥下するとまろやかな後味が残った。
食の知識に関しては素人のイサンでも、大衆に流通している品とは頭一つ飛び抜けた味であるとわかる。
「ちょっと香りが強いんですけど、そのぶん清涼感もあるでしょう?」
「うむ。いと好まし味なり」
そうイサンが言うと、ぱっと花が咲いたようにホンルは笑う。
いつも笑っていることが多いホンルだが、より幼さが滲むような笑み。
鴻園での一件を経てから、自分の感情を表に出すことにも慣れてきたようだ。
特に懇意な仲でもあるイサンの前では、その傾向が顕著になっているように思える。
「イサンさんはミントコーヒーが好きでしょう? こういうすっきりしたお茶がいいかなと思って」
食べ物の好き嫌いはほとんど無い――むしろ賞味期限切れのものすらも平気で口にする――イサンが顕著に好みを示すのがミントコーヒーだ。
ダンテが言うには、どの可能性のイサンもミントコーヒーが好きらしい。囚人それぞれにどの可能性でも一貫している性質が少なからずあるようだ。
茶を楽しみつつ、二人は様々な話をする。これまでは、ホンルがイサンの考えや、知識を興味深そうに聞くのが常だったが、最近はホンルからも話しをすることが増えた。
主に、自分がどう思ったのか、感じたのか。
自分の感情を押しとどめなくなったホンルからは、徐々にそんな言葉が溢れるようになっていて、イサンが聞き役に徹することもあるくらいだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、時計の針はすっかり傾いて、夜も更けてきた。
「イサンさん、あの……」
ちょうど会話が途切れて、沈黙が降りたところでホンルがイサンへ期待を込めた視線を向けながら、口を開いた。
「今夜、一緒にいてもいいですか?」
それは二人にとって、情事の誘いにあたる合図だった。
イサンは逡巡すると、ホンルと視線を合わせて、微かにこくりと頷いた。
◇
「……ん、ホンル君、些……しつこし……っ」
「そうですか? 僕としては丁寧に、と思っているんですけど」
潤滑油をたっぷりと纏ったホンルの指が、固く閉じた後孔を慣れた手つきでなぞっている。イサンすらも知り得ない緻密な皺までゆっくりと撫でられて、イサンは微かに体を震わせた。
うつ伏せになり、ホンルに尻を向けているだけでも、羞恥でたまらない気持ちになるというのに。イサンは枕を握りしめて、ふうふうと速くなっていく心臓を落ち着かせる。
ホンルはというと、イサンを気遣っているような言い方をしつつも、彼の反応を愉しんでいることは明白だ。
だが、その表情は枕に顔を埋めているイサンには知る由もない。
「――はっ、ん……!」
指がつぷり、と中に入り込んでくる。痛みはないものの、その異物感には何度行為を重ねても慣れず、イサンは息を飲み込んだ。
「息、止めると苦しいでしょう? ちゃんとイサンさんのペースに合わせますから、楽にして……」
イサンはそう言われ、枕に顔を押しつけたまま首肯する。
「ふっ……ん、は、ァ……!」
ホンルの人差し指がイサンの呼吸に合わせ、奥へ奥へと進んでいく。その次は指を曲げて、動かして、中の肉襞をなぞるように、柔らかく解していった。
「う、ンっ――、はっ、はァ……」
圧迫感、わずかな痛み、その中に徐々に快感が混じり始める。静かな夜半に水音がいやに大きく響いて、耳を塞ぎたくなった。
だが、そんな余裕すらもなく、イサンは悩ましげな吐息を漏らすことしかできなかった。
中が柔らかくなってくると、すかさず二本目の指、中指がさらに肉の円環を広げる。
「ふぁっ……!」
「すみません、びっくりさせちゃいました?」
「ものならず……。疾く、すべし……」
「いいんですか? そんなことを言ってしまって」
ホンルの声色も徐々に熱を帯びたものになっていく。
二本の指がぐちゅ、と中で動き出す。本来ならば、性感を得るべきでは無いそこを丹念に捏ね回す。
「はっ、ぁ、ん――」
浅いところを撫でると、びくり、とイサンの腰が跳ねた。
ホンルにすっかり位置を覚えられてしまった、前立腺。
そこをゆっくりと揉みほぐすように刺激されると、電流のような快感が頭の中を駆け巡る。イサンから漏れ出る声は明らかな艶やかさを帯びていた。
「ん、ぅあ、あっ……!」
ホンルの指がとん、と前立腺を押し上げるのに合わせて、イサンの肩は律儀に跳ね、反応を返している。空いていた左手でイサンの陰茎を撫でると、今度は腰がかくん、と逃げるように動いた。
「あ、あやにく、し……っ」
「ふふ、ごめんなさい。イサンさんがあまりにもかわいいから、意地悪したくなって」
「可愛し……? 私を、ろうじたりや……っ?」
恐らくホンルは褒め言葉として言っているのだが、イサンは不服そうに肩で息をしながら抗議の声を上げた。
「まさか。僕は本当に、いつも可愛いと思っていますよ」
ホンルは情事中とは思えぬほどの暢気さ。だが、ぺらぺらと喋りながら、イサンに断りもいれず、三本目の指を後孔に滑り込ませた。
「っ、ふ、ぅうう……っ⁉」
中をかき回す指の動きも大胆になる。ホンルの長い指は肉襞をかき分け、さらに奥まで潜り込んできた。
人差し指、中指、薬指。浅い部分はすっかりと広げられてしまっていたが、圧迫感はあれど、それにフィルターをかけるような快感に、イサンは陶酔しかけていた。
「はっ、ァ、ひっ、うっあぅ――ッ!」
イサンの陰茎はすっかりと身を擡げ、先走りを溢れさせていた。ぽた、ぽたとシーツの上に透明な液が零れる。
「気持ち良いですか? だいぶ、解れてきましたね」
穏やかさと泥のような甘さを内包する声が、イサンの耳に流れ込む。微かに感じる吐息さえもたまらず、イサンは枕に頭を擦りつけるようにして頷いた。
「ホンル、くんっ……、疾く、中に――っ」
快感で炙られるような状況に耐えきれず、イサンはあんなに縋っていた枕から顔を上げて、できる限り振り向いて、ホンルに訴える。
視界の端に捉えたホンルの顔はまともに見えなかったが、その瞬間に中を解していた指が粘っこい音を立てて抜かれる。
「イサンさん、こっち向いてください」
うつ伏せから体をひっくり返されて仰向けになる。これまで背後で聞いていた声音とは裏腹に、ホンルの顔にはイサンと同様に情欲が滲んでいた。いつもは純朴な瞳が、妖艶に細められる。イサンに覆い被さり、軽い口づけをして、首元に舌を這わせる。
「ン、っぁ、ホンル君――」
熱い舌先が肌を舐るだけで快楽を得てしまうほど、イサンの体はすっかり敏感になってしまっていた。
「可愛い、ですよ。イサンさん。可愛くて可愛くて――愛おしい、です」
イサンにだけしか聞かせたくない、とでも言うようにこそりと囁かれた言葉に、イサンはどう返すべきかわからず、困ったように眉尻を下げた。
イサンが戸惑っている間に、入念に解された後孔に、陰茎の先が押し当てられた。油の助けもあって、ずぷ、と痛みを伴うことなく中に押し入ってくる。
ホンルだって辛いだろうに、いつもイサンの心と体を気遣い、ちゃんと準備ができるまで我慢してくれている。イサンもそれに少しでも報いるように、息を吐き力を抜いて、ホンルのものを己の中に招きいれた。
「っ、あ、ふっ、ん――っ!」
先ほどの、前立腺。そこに勃起しきった上反りが擦れて、イサンはたまらず声を上げる。
「っ、すみません、イサンさん――」
「詫ぶる、ことはなし……。些か刺激が……こはかりし、ばかりなれば」
イサンはホンルに続けるように促した。
さらに指が届かない奥の方まで熱の塊が押し進んでいく。イサンは肌をさざ波のように震えさせて、肩で息をする。
「 ぁ゛、うぅ――っ! ほんる、く……」
ぞくぞく、と体の内側から快感が上ってきて、イサンは目を細める。腰が無意識に浮いて、つま先がぎゅっと丸まった。
「イサンさん、気持ちよさそう……。ぼくも、動きます、ね」
ホンルもすっかり情欲に浮かされているようで、イサンの細腰を掴むと、ゆっくりと律動を始める。
前立腺を擦り上げられ、中を突き上げられるたびに、イサンを眉を寄せ、快感に喘いだ。
「は、ん、ぁ―― あ゛っ! ァ……っ!」
「あ、イサンさんの中、きもちいいです……。 すみません、もう、加減……できなさそう、です」
恍惚とした表情でイサンを見下ろしていたホンルが、深く息を吐いて、唇を舐める。
「はっ、う――っ、好きにすべし――っ、はぁ、あぅ、っ!」
イサン自身で我慢の箍を外してやると、今までよりも自分よがりな律動が、さらにイサンを追い詰め始める。すっかり知られてしまった弱い部分を何度も責め立てられ、イサンはもう声を抑えることなどできないでいた。シーツを握りしめて、目尻から涙を滲ませながら嬌声を上げる。
「っ、あ、は、っ、ン――! ふっ、ぅ……!」
ホンルの額から汗が伝い落ち、イサンの胸元にぱたぱたと落ちてくる。快感に染まるイサンの姿に煽られているのか、ホンルの眉間にも汗で髪が張り付いていた。
それにぼんやりと目を奪われていると、唐突に陰茎を掴まれて、上下に扱かれる。
「ひっ、ぁア――っ⁉」
イサンの陰茎はこれまでの快楽のせいで、腹につくくらいにそり返って、切っ先からはひっきりなしに雫を零している。
「っ、イサンさんのここも、凄いことになってますね」
「さ、さほどな見そ……っ! ん゛っひっ――!」
しかし、ホンルは優しく微笑むと、そのままイサンの陰茎を緩く扱き始めた。
「 あ゛、ぁあっ⁉ ひ、っ」
前からも後ろからも責め立てられて、イサンの身体はもはや限界だった。奥の行き止まりにまで届いているような錯覚さえ覚え、絶頂への階段を駆け上がっていく。
「っ あ゛、は、ぁ――、っ、 あ゛、ひ――っ!」
「っ、僕も、そろそろ……っ!」
ホンルの声に合わせて、激しく抽挿が繰り返され、ぱん、ぱん、と乾いた音が響いた。
「 あ゛っ、あ――ッ!」
最後、大きく腰を打ち付けられたその時、視界が白く明滅して、絶頂に達する。無意識に体に力が入ってしまい、後孔をきつく締めつけてしまったのだろう。ホンルも低い呻き声をあげて、イサンの最奥に精を放った。
イサンはそれに感じ入ったような声を上げて、絶頂の余韻で体をひくつかせた。
すっかりと理性が焼き切れてしまって、思考がまとまらない。
「は……っ、ぁ――っ、は……」
「すみません、イサンさん……。大丈夫、ですか?」
「ううむ……、些か茫洋なれど……ものならず」
ずるりと肉茎を引き抜かれ、イサンはふうふうと息を吐いた。脱力感と疲労。だが、頭の中はそれを上回る多幸感に満たされていた。
その感覚に浸っていれば、ホンルが傍らに寄ってきて、イサンの額に唇を落とした。汗で濡れていることも気にしないで、ちゅ、ちゅ、と顔中に口づけを降らせていく。
その戯れに答えつつ、もう夜も随分更け、日付を跨いでしまっていることに気づく。
「ホンル君、今宵は……」
「うーんと……寂しいので、一緒に寝ちゃっていいですか?」
イサンは迷うまでもなく首肯した。別段、これが初めてのことでもない。イサンがホンルと情を交わすときは、イサンの部屋で一晩そのまま過ごしてしまうのが常だった。
ホンルは朝方少し早めに起きて、自室に戻ってからリンバスカンパニーの制服に着替えて何食わぬ顔で出勤する。
軽く体を清めてから、二人はベッドに入り直す。
お互いの暖かな体温を感じると、自然と睡魔もやってきた。
「おやすみなさい、イサンさん」
「ホンル君も、佳き夢を見まほし」
◇
翌朝。ホンル裏路地の夜が終わった頃に目を覚ました。
いつもより少し早いが、自室に戻っておこう、と体を起こす。
「ん――?」
傍らのイサンが目を覚ましてしまったようで、まだ眠そうな目を擦りながらホンルを見上げた。
「もう戻りき?」
「すみません、起こしちゃいましたね。ちょっと早いですけど」
「案じずとも良き。また、あとに……」
イサンはまだ胡乱な様子で、言い切る前に再び眠りに落ちてしまった。ホンルは、ふふ、と静かに笑うと、イサンに布団をかけ、ベッドから降りる。
持ち込んだ茶器はイサンの部屋に置いてもらうつもりだ。彼に言うつもりはないが、元々イサンと茶を飲むためだけに持ってきたものでもある。
二人で明文化したわけではないが、なんとなくの流れで二人で逢い引きをするときはイサンの部屋、という習慣があった。
そのせいか、イサンの部屋には随所にホンルの私物が置かれている。前は律儀に持って帰っていたのだが、イサンが手間だろうから置いていっても良い、と言ってからはその言葉に甘えている。
もういっそ制服なども持ち込んでしまおうか、などと考えながらホンルはイサンの部屋を出る。
扉には出入りできる囚人の名前が連ねてあって、ホンルとイサンは同じ扉を使って自室に出入りしていた。そのため、もう一度同じ扉から自分の部屋に入ろうとする。
「――あれ?」
眼前に広がったのは見慣れた自分の部屋――ではなく、イサンの部屋。
ホンルは一度目を閉じて、扉を閉める。そして確実に扉から手を離し、体のどこも触れていない事を確かめ、自分の部屋の光景を思い浮かべながら再度扉を開いた。
「んん……」
相変わらず、そこはイサンの部屋のままだった。
予想だにしない状況にさすがのホンルもどうしたものかと首を傾げた。
「ホンル君、なりや……?」
すると異常を察したイサンが寝ぼけ眼のまま起き出して、扉の前で突っ立っているホンルに声をかけた。
「起こしてしまってすみません。実は、自分の部屋に行けなくなってしまって……」
「……?」
イサンもホンルの言葉に同じく疑問符を浮かべる。ホンルと同様に一度部屋を出て、扉を閉める。そして、再度部屋を開けると、そこに現れるのはいつも通りの自分の部屋だ。
「ふむ……」
イサンは扉を閉め、ホンルに目配せすると、今度はホンルが扉を開ける。
何度試しても、繋がるのはイサンの部屋だ。
「なんと……げにあやしきことなり……」
「どうしましょうか。制服も武器も取りに行けませんね……」
「メフィストフェレスの事情はファウスト嬢に問うが良きよしなり」
バスに何か異常があるのであれば大概のことであればファウストが対処するだろう。
皆が起き出す時間まで、ホンルはイサンの部屋にいることにして、二人は再びイサンの部屋に戻っていった。
幸い、残していた私物の中には身支度に使用する櫛などもあり、身なりを整えるのに不自由はしなかった。制服に着替えるイサンを見ながら、ホンルは呟く。
「もういっそ、制服とかまで持ち込んでしまおうかな、って思ってたんです。そうしたら、朝もゆっくり、イサンさんと過ごせますし」
自分の部屋に戻れなくなったというのに暢気な物言いをするホンルだったが、イサンはその言葉で何かに感づいたように、顎に手を当てる。
「うむ……、もしや……」
「イサンさん?」
考え事に集中し始めたイサンはそのまま黙りこくったままだ。だが、眉間に皺を寄せ、若干の羞恥があるような、複雑な表情をしている。
「い、否。まずはファウスト嬢より意見を賜らん。杞憂やもしれず」
「何か思いついたんですね? もったいぶらないでくださいよ~」
ホンルがそう問い詰めてもイサンは頑として口にしようとはしなかった。

